見つかりません 夜だから 気が晴れません 春だから 悲しみません 嘘だから 欲しがりません 朝までは
かみくだく ラムネの色の 春の街 ひとり気ままに 風の真似
悲しみでこの朝を 満たそうとしないで 仮定してみるのは どうだろう はじめからそんなことは なかったと 今日が始まりだとして 記憶は鬼気迫る 夢のように鮮やかだけれども
彼女は海 それから柱 ときどき猫 たまに砂
今日は黄色い日 頭に黄色い花が咲いていたから 明日は赤い日 君が赤いTシャツを着てくる日だから ドラムスティック持って あさっては青い日 夕方が青いから しあさっては白い日 朝から街が白くて あとはずっと 黒い日 上から何で塗りつぶせるか ぶどうのサイ…
こごみ早蕨春若布 蓬たけのこ蛍烏賊 蛤菜の花フキ三つ葉 苺たらの芽桜えび 畑に上る山の朝 自転車下る潮の風
川面に風が挨拶すると 水面に光るさざ波の 小粒がきらきら 生まれます 今年はどんな春でしょう 街路のコブシもモクレンも 蕾はとうに 知ってます
私たちが数えられていなかったとき 私たちが数ではなかったとき 私たちにまだ番号が付与されていなかったとき 私たちは何だったろうか 私たちが免許や資格や学籍や社員という地位や年金や健康保険番号や国籍や県民や市民という名の下に管理されていなかった…
うーんにゃ そうでもない また雪がふらんように 電話しといて 雷さんの番号しか知らんの ならええわ 雷さんに伝えてもらい もう 春ってことでええやん あかんの 2月やけど 雪 君は冷たすぎて悲しなる
あらゆる情報が 手の中にあって 調べれば 得られる気がするのに 本当に欲しいものは 決して手に入らない 自分は何をしたいのか 自分は何をすればよいのか おおまかな ラインに沿って 退屈というものに 窒息し酸欠のまま 日々ぶつかってくる 無意味さの濃縮さ…
心の中に小さなつるぎがあって 時々取り出すとちくちくとおのれを苛む
長くのびた影の先に 手のひらを落として 石の形に光をまとめ 緑の翳りの中に投げ やがて訪れる夕闇まで ほんの少し ほんの少しだけ 放恣な夢から醒めて とりとめのない 作業に戻って行く 時のベンチで 頬に風を感じて夕暮れの中で ただ座っていた 春の日を思…
はだしで水のへりをあるいていく 水が触れないように 長く弧を描いた砂の浜 足には小さな指が五本いて それぞれに春を感じようとする 足首のあたりで折った 白のジーンズは光を受け ハサミで値札を切ったときのことを 思い出す この弧は長くて 水はどこまで…
そして橋の上に立つと風が 髪を飛ばしはじめる 髪は頭に根を下ろしたままどうにかして 風に巻き込まれようとする 風は私の中心も飛ばそうとする 心臓だの肺だのまとめて まるで不要なものとばかりに どこに? 私はもうありとあらゆる川に行ける どの橋の上に…
にゃーと鳴き うーと唸る にゃと鳴き うと唸る あと、夜の秋
待て待て 行きは良いが 来てしまったら もう戻れない 退くことも 止まることもできないこの先は ただほの暗い 両側から囲まれるような道ひとすじ
まえにもどこかで書いたにちがいないが きっとわたしは生という病にかかっていて 先がもう長くないにちがいないのだ だから誰とも会わずに誰とも話さずに 日がな他人の競技を傍観することに 勤しんでいるのだ 他人はありとあらゆる競技に心を尽くして スポー…
コンが ペイと トウと出あって そうだね みんなで トウペイコンだ そうして 三人でお茶を飲んで小さな濃い味の お菓子を食べたよ 次の日 ペイが トウと コンと出あって そうだね みんなで コントウペイだ そうして 三人でお茶を飲んで小さな濃い味の お菓子…
太陽はまだ白い顔して 光をいっぱい打ちつけている 風はいい感じに強くなって すらすらとした光の中を 小魚が水流を巻きとるように どこ吹く風に吹いている 空が手ぐすねひいて 掴みどころのない 秋の夕暮れに 風邪や物思いや 知らないところにあった しめや…
右のぽっけにどんぐりみっつ 左のぽっけにどんぐりいつつ 転んで涙がこぼれても ぽっけのなかにはどんぐりやっつ
もし靴ひもが蜂だったら そんなに遠くへ行かないで 迷子のふりして さぼるけどな 今日のところは もし蜂が棚だったら そんなに約束はしないで 旅の途中で 迷子のふりして 泣くけどな もし棚が今日だったら そんなに遊ばないで 薬を飲んだら 迷子のふりして …
それからずっと欲しかった刀で 空のはじっこを削ぎ落として 涼しい秋の公園の 楽しい駆け足の靴に隠す これが前からの望み もう良くならないとわかっているから ずっと欲しかった刀で なだらかな肩のはじっこを どこから来たのか忘れて つぶつぶしている砂っ…
がりがりとかじるんだ ひとんちの 庭に咲いたサルビアのおしべと めしべ 植木鉢の傍らにある 軽石 躊躇なく行け 中途半端に破れた 網戸 鍵の壊れた物置の とびら 薄暗がりの不安 かじれ かじれ がりがりと 噛み砕け 寝転んだ床の埃 隙間に逃げ込む野ねずみ …
あんなにも苦しくて その先にはなにもないように見えた なにもかもが手探りで まいにちの望みがまいにち絶たれているように 思えた 今のことにもこれからのことにも これまでのことにも すっかりと疲れきって 昨日までの絶望の連続に 今日の絶望が積み重なる…
今日水たまりに虹が落ちていてその虹を拾おうとしたら長靴が脱げて空が跳ね返って行ったよ 風が笑ってた 気づいたら虹は逃げてしまったよいつに?来年の夏の方に おかげで少しの青空だけだほらこの左の長靴に隠れているのは また雨が降ったら寂しくて呼ぶん…
小雪たち、風にのって はげしく舞い踊り 誰の懐にもななめから飛び込もうと 目まぐるしく景色を変えていて 道行く人は ほとんど視界をうばわれながら 師走の町を急いでいる 暖かな部屋のなかでこの 病める人は奥歯で後悔を噛み砕く 苦い思い出があふれでて …
もう何も残ってないと思うような日 まだ詩が残っていたと思える日で 私のパンドラの箱に残された最後の光 ひとすくいの食べられもしない砂 他のすべてが徒労と思えても言葉よ 日本語よただそこに私がある
冬の光は弱くてかぼそい腕を伸ばしてユキワリソウの鉢に届こうとするが風の一群に裂かれてばらばらにきらきらと散ってしまった メモ-昨年2月20日に書き未発表だったもの
真相は夢の中夜はともしびの中朝は雨の中蟷螂は午後の窓の中 梅干しは飯の中アマリリスは霧の中牙は口の中胡桃は腹の中骨髄は汁の中街角は風の中紙切れは待つの中吐き出されたため息を拾ったら抱き上げて懐の中もう十分集めたから誰かみつくろって今夜はとう…
みんなが好きっ てわけじゃない ものが好き 三月のわらび 四月のふき 五月のグリンピース 六月のセロリ 七月のピーマン 八月の自分 それから 十二月の春菊 今日の…