本日の詩

詩なり詩なり

230923

もし靴ひもが蜂だったら

そんなに遠くへ行かないで

迷子のふりして

さぼるけどな

今日のところは

 

もし蜂が棚だったら

そんなに約束はしないで

旅の途中で

迷子のふりして

泣くけどな

 

もし棚が今日だったら

そんなに遊ばないで

薬を飲んだら

迷子のふりして

歩き回るけどな

 

もし今日が途方だったら

そんなに途方もなくなったり

そんなに途方にくれたりしないで

口笛ふいて

迷子のふりして

ふたたびみたび

健康を損ねるけどな

 

もし途方が薄い紙だったら

暗がりで鼻をかんだり

月夜にでんぐり返しをしたりしないで

迷子のふりして

機嫌を損ねるけどな

 

もし薄い紙が適切な

アルカロイドだったら

筋肉痛になったり

検索で満足したり下痢になったり嘔吐しないで

鬼と鬼ごっこして

迷子になる

 

百年たっても迷子つきの靴ひものまま

変わらないでいる

靴ひもに「もし」がなかったら

靴にひもづいてる

まるで靴ひもみたいに

もし靴ひもだったら

 

 

 

 

230922

それからずっと欲しかった刀で

空のはじっこを削ぎ落として

涼しい秋の公園の

楽しい駆け足の靴に隠す

これが前からの望み

もう良くならないとわかっているから

ずっと欲しかった刀で

なだらかな肩のはじっこを

どこから来たのか忘れて

つぶつぶしている砂っこを

紅葉のよそおいのあいだを

なめらかに流れる風の子を

削ぎ落として

楽しい鬼ごっこの靴に隠す

こってりとした血を広げて

時は素敵に流れるだろう

もう良くならないとわかっているから

これ以上ないほどの切れ味

 

230920

がりがりとかじるんだ

ひとんちの

庭に咲いたサルビアのおしべと

めしべ

植木鉢の傍らにある

軽石

躊躇なく行け

中途半端に破れた

網戸

鍵の壊れた物置の

とびら

薄暗がりの不安

かじれ

かじれ

がりがりと

噛み砕け

寝転んだ床の埃

隙間に逃げ込む野ねずみ

追いかけて行け

とがった猫の爪

次々とあふれる予定

全部かみくだけ

褒賞に似た批判

ぬるい皮肉

その間に落ちた靴

くだけ全部かみくだけ

かみちぎって

行け走れ見えなくなるまで

誰にも見えなくなるまで

230917

あんなにも苦しくて

その先にはなにもないように見えた

なにもかもが手探りで

まいにちの望みがまいにち絶たれているように

思えた

今のことにもこれからのことにも

これまでのことにも

すっかりと疲れきって

昨日までの絶望の連続に

今日の絶望が積み重なるのが見えて

これはもう続けられないと思ったとき

その時がいちばん輝いてみえたのだ

たぶんその人には

それから少しの成功があって

華々しい成功があって

堅固な成功があって

その苦しみから逃れられた運命と

それから結局なにも実を結ばず

あからさまな敗者として

排除された結果として

その苦しみから逃れられた運命とがあって

どちらを生きたとしても

もうあの輝きは二度と訪れない

先の見えない不安の中に投げ込まれて

もがいているときに

もっとも美しく

輝いていると

誰か教えてくれたなら

230808

今日水たまりに虹が落ちていて
その虹を拾おうとしたら長靴が
脱げて空が跳ね返って行ったよ

風が笑ってた

気づいたら虹は逃げてしまったよ
いつに?
来年の夏の方に

おかげで少しの青空だけだ
ほら
この左の長靴に隠れているのは

また雨が降ったら寂しくて呼ぶんだよ
少しの思い出と草の匂いを乗せた風を

221220

小雪たち、風にのって

はげしく舞い踊り

誰の懐にもななめから飛び込もうと

目まぐるしく景色を変えていて

道行く人は

ほとんど視界をうばわれながら

師走の町を急いでいる

 

暖かな部屋のなかでこの

病める人は奥歯で後悔を噛み砕く

苦い思い出があふれでて

じんわりと胸にしみ

腹へと落ちこんでいく

 

また

こいつも腸から下って

俺の死より前に暗渠から

下水処理施設を経て

整えられた教訓になり

口のでかい魚たちに

餌とごちゃまぜにされて

飲み込まれるだろうが

消化はされず吐き出されて

ぐるぐると世界を巡り

いつかこんな雪の日のふぶきの

欠片にいりまじり

狂おしいダンスを踊るとしたら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

221215-2

もう何も残ってないと思うような日

まだ詩が残っていたと思える日で

私のパンドラの箱に残された最後の光

ひとすくいの食べられもしない砂

他のすべてが徒労と思えても言葉よ

日本語よただそこに私がある

 

221029

真相は
夢の中
夜はともしびの中
朝は雨の中
蟷螂は午後の窓の中

梅干しは飯の中
マリリスは霧の中
牙は口の中
胡桃は腹の中
骨髄は汁の中
街角は風の中
紙切れは待つの中
吐き出されたため息を
拾ったら
抱き上げて懐の中
もう十分集めたから
誰かみつくろって
今夜はとうとう人をこしらえよう

ふだんは
あふれそうになる言葉を
もう一度のみこんでのみこんで
のどの中
心の中
記憶の中
私の中
この詩の中