するすると鯉は朱を
後ろに引きながら
逃げてみんなのいる
柳の下のどじょう池の
濁った水に潜り込んだ
僕もあんな風に
逃避と突進の軌跡を
誰かの残像に残してみたい
妄想を強く噛んだら
心の奥歯が欠けて
小ねずみが現れた
失くしたと思っていた
細く長くしなやかな尻尾
触れたいけどまた
失くしそうだから
しばらくそのままにして
池の丸い水草のしたで
ぽっくり口を開けた鯉の
鱗を見ていよう
鯉は水面に顔を表して
僕に頼むだろう
良くできた関連施設を
紹介してくれたら三年前の
契約はなかったことにしてやろう
それで僕はあちこちに電話をかけまくり
紹介状と錆びたナイフを用意して
舎弟の鮒を脅してみる
そんなにベーコンとオレンジジュースに
なりたいのか
鮒はベーコンは嫌だけど
と言う
それにしても毛深い鮒だ
お前本当に鮒なのか
鮒は最近もみ上げを
伸ばしはじめたから
僕のスクランブルエッグは
美容師が柔らかなパーマをかけた
鮒は助手席に戻ると
AC/DCをべたべた流し
姉のことなど話した
鯉は今ごろはもう
水草の下で彼女とよろしく
やっているだろう
これだから僕は空腹だ
寝る前に小ねずみがいるか
確かめたかったが
こわくてのぞけない
からの心に飢えて
自分の尻尾食っちゃったら
もう今日の続きには戻れない
僕は虚空にさまよったまま
泡ときどき鮒だ