本日の詩

詩なり詩なり

091204/2409/ari-nomi

すみません。なかなか新しいものをお目にかけることができず。
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私は昨日夜一冊の
ワークブックを失くしていた

どこで失くしたか
覚えていない

私は昨日朝一本の
襟巻きを失くした
柔らかな兎の毛皮

それは駅で
幸運にも捕獲されていた

世界がもっと
多くのものを失くしている
あいだに

私は昨週一人の
少年をなくした
不注意な叱責によって
仮装した疲労によって

それに私は二週間前
通販で買った
一組の
灰色の手袋を失った
失くしたということだけを覚えている

あとはあの
優しい手触り

私はちょうど4ヶ月前
まだ夏と呼べる日に
白い日傘を失くした
金山駅の公衆トイレで
優雅な刺繍を施した傘
気がついて戻ったが
薄暗い個室にあの白は堪えられなかった

数年前にはどういういうわけか
友人を失くし

そのしばらく前には当然のように
恋人を失くし

つい最近はごく自然に
仕事を失くし

さらに昔、子供の頃
長野駅で 赤い、高価な
水筒を失くし、喪失の感覚を知った

いつかに
淡いベージュの
スカートを失くし
いつ失くしたのかも覚えていない
気に入っていたのに

ついさっき
名古屋駅に近いカフェで
財布を失くした
私の名は
まるで私の名でないように
呼ばれ
戻ってきた財布は
私に愛されていないのを知っている

もう既に多くの
思い出を失くし
少々の計算式と
歴史の事象(ノブナガって誰?)と元素記号
多くの漢字を失くした

それらを持っていたときの
幸福な記憶も
不幸な記憶も
忘れるだろう、いつか忘却の感覚も喪失し

君のネクタイの色の激しい鮮やかさも
忘れるだろう

やがてあらゆる未来も失くすだろう
それはまったく明らかなこと
遅かれ早かれ
私自身が失われるだろう
それはまったく明らかなこと
だがそれは
他者の不注意によって、あるいは私自身が
散逸することによって?

それは
いつ
どこで
起こるのかしら
そんな事を考えながら歩いている
通りのカフェのコーヒーの香りに
心を奪われている
今にも手の中の一つの
紙袋を失おうとしている
そこには
マシュマロと新しいメモパッド