駅前はぐるりと
回って
何台かのタクシーが
とまったり動いたり
時々バスだいぶ
ぶんぶん言って
ぷしゅ、しーととまって
四角い、そんな
ロータリーの真ん中には
一本の木
生まれた時の
ことは覚えていない
ここに
連れて来られてから
ずっと
長い夢を見ている
いつか
どこかのしずかな山の
あんまりぼうぼう
木の生えていない
つまり
ややこしい
背比べなどない
そうはいっても
なかなか日当たりの良い
風通しの良い
斜面に引越して
夜
良く眠り良い夢を
見るのだ
というささやかな夢
木は確信している
(そもそも木は確信
しやすい生き物なんだ)
その夢の中には
この駅が出てきて
自分は何か別のものに
なり
たとえばアオガエルとか
捨てられた唐揚げの紙袋にね
(カエルの唐揚げではないよ)
背の高い木を見上げて
深い
憧憬の念を抱くのだ
その木は自分より
ずっと立派でもっと
幹もがっしりし
もっと葉も青々と
茂っているだろう
そしてその木は
山に生えてぐっすり
眠りたいとは
思わないで何か別の
夢を見ている
何の夢か
当てられるだろうか