本日の詩

詩なり詩なり

20140906

おい田中お前の書いた請求書の数字が
全然違うせいでおれが取引先に
どれほど怒られたことかこのへそを
見ろへそのゴマを取れ悪いと思うなら
おい田中お前の書いた見積書の数字が
全然違うせいでおれが取引先に
どれほど叱られたことか去年から
何回間違えれば気が済むんだよし
お前おれが手相を見てやる来週
小鳩ガ峰に来いおれが手相を見てやる
おいもう少し左に寄れこっちはもう
あとがないんだ
確かにおれたちにはあとがない
こんなところに取り残されて
このタイミングで仕事の話
おれは数字なんて間違っても間違えない
請求書なんて自分のすら書かないのに
お前のなんて書くわけがない
第一去年はまだ働いてないだらだら
するのに忙しかったし原木シイタケも
作ってたんだ、だからって
この雪の中でなんなんだ腹出すなよ
お前、お前、お前誰だよ
へそのごまなんかないよ第一おまえには
へそがないじゃないか、見積書だって
うちではわざわざ作ったりしない
電話でさっと確認してあとはメール
だいたいおれの手相を見ようなんて
不可能だおれの手にはなんのしわもない
手だってほとんどないにひとしい
鷲ヶ峰なら知ってるが
小鳩ガ峰はずいぶん前から閉店だ
おれたちにはまだ取引先がない
おれたちにあるのはこの切羽詰まった
状況と、わずかな足場に白い雪
第一お前をおれは知らないしもっと
言いたいのはおれは田中じゃない
おれは誰だよ、おれは知らない
おれはいったい誰なんだ
これはここから生還したら
考えよう、なんなら田中になっても
いい、悪かったって謝ってほしいなら謝るが、ここから生還したらにしよう
駅近くの居酒屋でいっぱいやりながら
それまでにへそを見つけてゴマつけとけ
どうせさっきのトイレで落としたんだろおれも理想の手相を描く