あの葡萄からは水色の匂いが
しました。水色と言っても
空を薄めたような水色じゃなくて
緑色がうっかり変わってしまったような
ちょっと狂ったような」
野ねずみはひげをひくひくさせて
野うさぎはつられてひげをひくひくさせて
「そりゃ、君、そういう色の風だって
あるから」
野ねずみは深く頷いて
「あの人はそういう人なんです---だから
車に乗っていたって」
野うさぎは目を見張って
「君、車に乗ってる人の匂いをかいだのかい」
野ねずみは野うさぎを見上げると
「だってあんなにも紫色の匂い---君、
水色の葡萄はあんなにも濃い紫色の匂いを
放つのでしょうね」
さあ、もう野うさぎは落ち着かなく
「どうだろ、匂いに、色があるなんて、
ひょっとして、君、---ああ、もう行かなくちゃ」
野ねずみは取り残されて草の中
夕べの夢の続きを見るのです
(了)