本日の詩

詩なり詩なり

220121

少しも空を見上げなかった
駆け回るのに忙しかった頃

十代で彼は
雨は空の涙と書いた
友達は
陳腐の極みに吹き出し
彼は初めての詩を捨てた

二十代で彼は
雨は水蒸気の成れの果てと言った
友達は
その言い方を面白がって
彼は少し得意になりそんな
自分が嫌だった

三十代で彼は
雨は空の汗だと思い
どうしてこんなにも
人生は苦しいのだろうと思った
友達は?
友達など虹のように消えた

四十代で彼は
雨は空のしょんべんだと思い
誰かとそれを共有したかった
彼の眼鏡は
曇っていて顔や腹には
贅肉が醜く付きはじめている

五十代で彼は
昔嫌ったおっさんになったと
わかった
雨も雪も雹も霰も
うっとうしく邪魔で
空は忘れてもいい
ただそこにあるだけの天気

六十代で彼は
死にそうになり
窓についた雨だれを静かに眺めた
一つ一つの滴がすべて違って見え
それを写し留める
画力があればと思った
横になれば雨音は
静寂よりなお静かで
それを写し留めた
ひどく美しい音楽を
作れればと思った

七十代で彼は
空を見上げて
空は雨の涙という詩を書く

食堂で鯖の味噌煮と
ご飯を食べ
夜は一袋30円のうどんを食べる

彼は詩の続きを書く
その美しさを気に入って
何度でも似たように書くだろう
その美しさは永遠に彼に
留まるだろう